男性不妊
妊娠を希望する健常なご夫婦であれば、1年以内に約8割、2年以内に約9割の方が妊娠に至るとされています。WHO(世界保健機関)が発表した不妊症原因の統計では、48%が男性因子による問題とされ、35歳以降は特に精子の遺伝子が傷つき老化しやすくなるため、精子側の原因も重要であると考えられています。

《精子危険度 自己チェック》
※5個以上あれば注意
□ 大人になっておたふく風邪や40度以上の高熱を出したことがある
□ 睾丸の大きさが一差し指と親指で作る輪より小さい
□ 睾丸が温かくフニャフニャしている
□ 鼠経ヘルニアや停留睾丸の手術を受けたことがある
□ トランクスよりブリーフを好み、いつもピッタリした衣類や下着をつける
□ ノートパソコンをいつも膝の上で作業する
□ 性感染症にかかったことがある
□ 陰嚢に触れると痛みやしこりがある
□ 喫煙の習慣がある
□ マスターベーション(射精)が週2回以下である
□ 高血圧・糖尿病である
□ BMIが28以上である
□ 育毛剤の内服をしている
□ 2合以上のアルコールを週5日以上飲んでいる
□ 睡眠時間が短い
□ 生活習慣が乱れている
男性不妊の原因と治療
男性不妊の検査
問診と診察があり、検査は採血・尿検査・精液検査・超音波検査などを行います。採血では、一般検査の他にホルモン・抗精子抗体・染色体を調べています。超音波検査は、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)の有無などを検査します。
男性不妊の原因

①造精機能障害(82.4%)
最も多いタイプで原因不明が多く、精子の製造する機能に問題がある状態です。精子の状態によって乏精子症・非閉塞性無精子症・精子無力症・精子奇形症の4つがあります。
乏精子症:精子濃度が正常値以下の状態
無精子症:精子が1匹もいないかそれに近い状態
精子無力症:精子はいるが動きが弱かったり全く動いていない状態
奇形精子症:奇形率が正常以上に多い状態
※実際には上記が組み合わさって起きることが多いです
②精路通過障害(3.9%)
精路の狭窄や機能的閉塞のために詰まっている状態です。
③性機能障害(13.5%)
ストレスや精神的緊張で腹痛や下痢が起こるタイプ。
勃起障害(ED)や射精障害、性欲の低下などがあります。精液所見に異常はないが、精子が配偶者の生殖器管に到達できない状態です。妊娠率を上げるには夫婦生活を月5回以上とる必要がありますが、日本のカップルの45%はセックスレスという報告もされています。
検査数値が基準値だったからと安心している方も多いのですが、精液検査の基準値と実際妊娠に至った精子の中央値は違います。
日本人男性792名の自然妊娠が確認された男性の中央値
・精子濃度中央値 8400万/ml(一般的下限値1500万ml)
・運動率中央値 77%(一般的下限値40%)
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精液検査は問題無くて当然で、精子の質をさらに高めていく姿勢が重要です。
加齢や生活習慣による精子の影響
①精液所見の悪化
加齢により活発な精子の数が減少します。40歳以上になると精子遺伝子の断片化が増え、精子の遺伝子の異常は1歳加齢するごとに2個増えるとされています。
②妊娠率及び生児獲得率の低下
35歳以上の女性で、男性が5歳以上年上の場合、妊娠率が10%減少します。妊娠に至る期間が男性が40歳~44歳の場合、20代と比べて2.5倍・45歳以上だと5倍近くかかります。
③流産率の増加
男性の年齢が高齢化すると、流産率が上がります。男性20-29歳と比べて35-39歳で1.31倍、40-46歳で1.8倍近くになります。
男性不妊の治療
・「ED」「膣内射精障害」の治療
勃起障害では心理カウンセリングやED治療薬を使用します。また、カップに精液を取って、注射器で膣内に注入するシリンジ法などが提案されます。
・「乏精子症」「精子無力症」の治療
精索静脈瘤がある場合は、手術が推奨されています。
手術方法には、顕微鏡下精巣静脈低位結紮術と精巣静脈高位結紮術があります。
前者は、局所麻酔で陰嚢の付け根を切開し、日帰り手術が可能です。
後者は、全身麻酔で腹部横切開で3泊4日の手術です。
精索静脈瘤がない場合は、サプリメントやクロミフェン内服になります。
下垂体ホルモンや男性ホルモンが欠乏、あるいは低下している人では、下垂体ホルモン(LHおよびFSH)や男性ホルモンの注射をおこないます。
中医学で考える男性不妊
男性不妊の原因は「腎虚(じんきょ)」が基本になります。腎虚とは中医学でいう五臓六腑のうちの腎の機能が弱った状態です。
腎の役割は生命エネルギーの「精(せい)」を蓄え、成長・発育・老化をはじめ、生殖などの働きを司り、精子の質やホルモンバランスに最も深い関わりがあります。
男性は8の倍数で変化するとされており、40歳以降加齢や生活習慣の悪化で腎の働きが低下してくると、精子の質も衰えてきます。そのため、補腎(ほじん)法を基本治療とするのです。

男性不妊の鍼灸治療
下腹部と骨盤に鍼灸をすることで、精巣動脈を刺激して精巣に血液や栄養、酸素を集めることができます。また、頭や首に刺激することで、脳下垂体から男性ホルモンの分泌を促します。同時に、ストレスが多い・運動不足・食生活の乱れ・肥満・寝不足などがある人には、体質や症状に合わせた治療を行います。
鍼灸治療において、体のコリを緩めて肉体的ストレスを解消し、自律神経の働きを整えて心身共にリラックスすることができます。その結果として、自律神経や男性ホルモンの分泌が整い、活性酸素の発生を抑えながら血流を増加させることより、造精機能を改善させます。

精子の質を上げるには最低1ヶ月半から3ヶ月は必要です。精祖細胞から精子になるまでに42日~76日かかり、精子が作られてから射精するまで2日~14日かかります。その期間が約44日から90日なのです。
タイプ別鍼灸治療
①腎陽不足(じんようぶそく)
慢性病による体力消耗や加齢でみられます。
冷えが強く、エネルギーとなる「火」が不足したタイプです。腎陽が不足して体を温められないと、精子の造精機能が低下するため、精子数が減少します。
随伴症状:勃起不能、勃起してもあまり固くならない、精液が薄く量が少ない、寒がり、倦怠感 など。
鍼灸治療:腎陽を補うためにお腹や腰、骨盤に鍼をしてお灸で温めます。
灸頭鍼(きゅうとうしん:頭の鍼)や督脈(とくみゃく)調整法を使い陽気を活性化し、全身を温めます。
おすすめのツボ:関元(かんげん)、太谿(たいけい)など。
②腎陰不足(じんいんぶそく)
慢性病による体力消耗や加齢でみられます。
ほてりが強く、体液である「水」が不足したタイプです。水の不足により、相対的に強くなった熱が精子を殺してしまうので、精子の数が少なくなってしまいます。
随伴症状:性的に興奮しやすい、勃起しても持続しない、早漏を伴う精神緊張、動悸、寝汗、便秘 など。
鍼灸治療:体の中の潤い(陰)を養い余分な熱を取り除くことで、細胞の栄養状態を改善します。
おすすめのツボ:復溜(ふくりゅう)、照海(しょうかい)など。
③肝鬱気滞・血瘀(かんうつきたい・けつお)
ストレスや精神的緊張でみられる血行不良です。
ストレスなどで自律神経のバランスが崩れ、ホルモンの分泌や生殖機能に悪影響を及ぼし、骨盤内の血流も悪化します。長時間のデスクワークも血液が滞る原因になります。
随伴症状:勃起不能、少しの感情の変化で勃起に影響する、精痛や下腹部悶痛、抑鬱、ストレス など。
鍼灸治療:頭や手足、背中に鍼をすることで自律神経のバランス整え、血流を促します。
おすすめのツボ:三陰交(さんいんこう)、膈兪(かくゆ)など。
④湿熱下注(しつねつかちゅう)
:食生活の不摂生や肥満の方でみられます。
体内で停滞している水分に熱が加わった状態で、炎症の原因にもなり生殖機能を悪化させます。過度な飲酒、辛い物や脂質の摂りすぎる肥満傾向の男性に多いです。
随伴症状:勃起不全、精液が漏れやすい、白濁している、尿が黄色く濁る、身体が重く動きがにぶい など。
鍼灸治療:消化器の働きを促し、体の中の余分なものを除去して、体内の巡りの状態を改善します。
おすすめのツボ:豊隆(ほうりゅう)、陰陵泉(いんりょうせん)など。
男性不妊や体外受精が上手くいかないなどでお悩みでしたら、ご夫婦で爽快館の「妊活鍼灸 誠心堂式三焦調整(さんしょうちょうせい)法」をぜひ受けて頂きたいです。誠心堂グループでは、男性の精子の質を高めることを重要視しています。
暮らしのアドバイス
座りっぱなしは避けましょう
座っている時間の長さと精子数の減少に関連性が見られる報告があります。
睡眠時間を6時間半~7時間とりましょう
6時間半の睡眠をとっている人に比べて、それ未満の場合22%精子数が減少する報告があります。
禁煙しましょう
喫煙は造精能力に悪影響を与え、着床率や妊娠率を13-20%下げます。精子数も10-20%減少します。また、流産・先天奇形・胎児の異常発育が起こる可能性があります。
禁欲しすぎないようにしましょう
週2回以上射精をしましょう。禁欲期間が長いと精子DNAの損傷が増加しやすくなります。
暴飲暴食を避けましょう
ストレスを上手に発散しましょう
携帯をズボンのポケットに入れたり、パソコンを長時間使用しないようにしましょう
ぴったりした下着を避けましょう